上位アイドルへの道
選挙といっても、アイドル業界で決めるのは次期大統領ではなく人気ランキング上位のアイドル。2013年だけでも、第5回総選挙でのAKB48 (最大のポップグループとしてギネス世界記録を保持) の得票数は265万票。以来、総得票数は年々増加している。業界に多大な影響を与える総選挙はいかにして人々のブレない関心を集めたのだろう?
「選抜総選挙」とも呼ばれる総選挙はファンによる人気投票で、その結果しだいでメンバーのテレビ出演時の注目度、ミュージック・ビデオに映る時間の長さ、歌の割り当てが決まる。AKB48はランキングシステムと総選挙の先駆けだ。ファンは投票券が1枚入ったCDを購入し、好きなメンバーに投票する。選挙当日のうちに最多票を獲得したメンバーが発表され、順位に従ってグループ分けされる。上位16位までが「選抜」グループに入る一方、他はアンダーガールズ、ネクストガールズ、フューチャーガールズ、アップカミングガールズとして分類される。グループ分け終了後、全員の楽曲とミュージックビデオがリリースされる。
Image courtesy of Amara Japan.
驚いたことに、総選挙は草の根レベルで始まった。選挙というアイデアは、運営側の決断でなく、もともとはファン層からの声から生まれた。ステージで特定のメンバーばかり目立つのを一部のファンが不快に感じており、その不満をきっかけにセンターポジションを選挙で決めることになったのだ。ファンにとって、選挙は重大だ。なぜなら投票は、ランキング上位を望む「推し」(「お気に入りメンバー」をさすファン用語) への愛とサポートのあらわれだから。昔はメンバー内の人気を可視化することはタブーだったが、総選挙になるとその率直さが絶賛され世界中のJ-Popファンを魅了した。
AKB48のランキングシステムと総選挙が意味するものは人によってさまざまだ。「金しだいの選挙」と考える人もいる。このランキングは、ファンがこぞってCDを爆買いして推しメンバーに大量投票した結果だ。必然的に、裕福でまめなファンをもつメンバーが最大の恩恵を受ける。
一方、このシステムのおかげでメンバーには自己開発のチャンスがあるという人もいる。シャニ・ナティオは、JKT48 (インドネシアのAKB48の姉妹グループ) で32位になったときにグループ内の自分の役割を徹底的に見直した。そして、26位になったことがさらなるパフォーマンスの改善につながった。最終的には2019年に1位の栄冠を勝ち取った。各ランクの背後には常に歩みと成長の物語があるのだ。
これほど大きなグループにおいて、誰もが等しく注目されるのはほぼ不可能だ。ナンバー1になることは、チャンスが保証されることを意味する (入れ替わりの激しいこの業界では極めて稀なことだ) 。最高位のアイドルは歌、ミュージックビデオ、公式の場、インタビューで主役となる。ランキング上位に立ったことはAKB48の指原莉乃、前田敦子、大島優子のキャリアに長期間影響を与えた。卒業してからも。彼女たちの並外れた才能に加え、アイドル時代からの厚いファン層の存在はソロ活動での大きな強みとなった。
Image courtesy of J-Pop Asia.
どうしてもランクインできない低順位の場合、グループ活動への参加チャンスが減る。残念ながら徐々に選抜メンバーの陰に埋もれていってしまう。上位への道のりはとてつもなく険しいのだ。しかし、ナンバー1をめざしてアイドルはファンと共にあらゆる試練を果敢に乗り越えてゆく。
アイドルは選挙だけでなく、有名人としても多忙な毎日を送る。コンサート、テレビ出演、握手会、レコーディング、インタビューなど、過密スケジュールだ。それにともなう極度の疲労は現実問題となっている。JKT48メンバーのフェニ・フィトゥリヤンティは、順位が安定しているにもかかわらず、選挙にストレスを感じていると告白した。ファンの強い期待に対してフェニは不安になり、どうすればもっと票とファンの信頼を得られるか分からず、途方に暮れた。大衆の好奇の目にさらされた上での総選挙とランク付けがメンバーにとって相当な重圧であるのは確かだ。ウェブではAKB48の峰岸みなみ、JKT48のアディスティ・ザラは、それぞれ2013年、2019年のスキャンダルに関する話が多く見つかる。
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総選挙は多くの理由で世界中の注目を集めてきた。おそらく、その成功は選挙から生じるファンの分裂にある。ファンは選挙が「不正」であることに憤然とするか、トップにふさわしいメンバーを応援しようと意気込んで投票するかのどちらかに分かれるのだ。アイドルにとって「選抜選挙」はただスターになるかセンターで歌って踊るかだけでなく成長のチャンスでもある。結局のところ、トップである「だけでなく」レベルアップしたアイドルとしてステージで大歓声を浴びたくない女の子なんていないのだ。
Written by Vania, translated by Tomoko.
Featured image courtesy of Japan Times.