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ロリータの歴史

ロリータファッションと言えば、お茶会、「カワイイ」ネイルアート、ANGELIC PRETTY (アンジェリックプリティ) で人気のHoney Cakeワンピースを思い浮かべる。だが、現在のロリータのイメージを形作ったものは何だろう? BABY (ベイビー) のアイコンとも言える赤いエリザベスワンピースからMana (マナ) 様の奇抜なブルーのリップスティックまで、ロリータファッションの歴史はその多数のサブスタイル同様、バラエティに富んでいる。わたしたちはフリルやレースの向こう側に、誰もが知る原宿ファッションの一つであるロリータの起源について真実を探ってみたい。

ロリータファッションの大きなヒントになったのは、ヴィクトリア時代の英国やフランスのロココファッション。そもそもロリータファッションの始まりを知るには1970年代にまでさかのぼる必要がある。「カワイイ」カルチャーが日本中で人気を集め、美化されたフランスのイメージが若者の間で流行していた。当時多くの少女たちは、自分の好きなものや女子力に夢中になることで何とか家父長制をやりすごしていた。トレンドにまつわる商品を買えば、個人としての自由を何らかの形で味わうことができたのだ。MILK (ミルク) 、PINK HOUSE (ピンクハウス)、PRETTY (プリティ) などのファッションブランドは、こうした時流に乗って原宿の少女たちの人気ブランドとなった。その頃、英国の有名デザイナーVivienne Westwood (ヴィヴィアン・ウエストウッド) が原宿に1号店をオープンしたことにより、少女たちは自分のワードローブに彼女のブランドを取り入れることができるようになった。そして今でも沢山のロリータたちが、VIVIENNEの超人気ロッキンホースシューズを履く。

 

Image courtesy of lolitahistory.com

80年代に入ると、人気雑誌 『Olive (オリーブ)』 がMILKやPINK HOUSE、「フランス式ライフスタイル」についてイチオシの特集を組んだのでその動向はさらに強まる。読者は『Olive』を読んでロマンチックで「カワイイ」あふれるカントリー調の世界にハマった。誌上のライフスタイルやブランドは、その後出てくる人気ロリータブランドへの道を開く。有名ブランドのアツキオオニシで働いていた磯部明徳氏はその後、今や広く知られるロリータブランドのBABY, THE STARS SHINE BRIGHT (ベイビーザスターズシャインブライト) を設立。80年代後半にBABYが登場するまでロリータファッションのスタイルは確立していなかった。とりわけMILKやPINK HOUSEのような前任ブランドはロリータよりもおとなしいファッションを展開していた。淡い色、花柄、レースつきのロングスカートなど。ロリータファッションに欠かせないペチコートやヘッドドレスはまだなかった。BABYが 『Olive』 とつながりフランスのロココ調デザインにインスパイアされたことからはっきり分かるのは、ロリータの始まりは、元をたどれば70年代のフランス風 「カワイイ」 ファッションとWestwoodによる英国のパンクデザインとの融合であるということ。

Image courtesy of lolitahistory.com

90年代になるとロリータ人気は急上昇! ロリータブランドはパンクやクラシックの要素を次々と取り入れ、青木美沙子はストリートファッション誌 『KERA (ケラ)』 のモデルキャリアをスタートさせ、『FRUiTS (フルーツ)』 は東京でロリータのストリートスナップを撮り始めた。このロリータ全盛の中、「ロリータ」という言葉が初めてファッションのジャンルとして成立した。この呼び名にまつわる説は多数あるが、当時のデザイナーでさえ何が正しいかが分からない。90年代はヴィジュアル系ギタリストMana様が生み出したゴスロリスタイルの幕開けとなる。彼は、ヴィジュアル系ファッションとダークなヴィクトリア様式というロリータっぽくない世界観をリンクさせたのだ。Mana様のファン (かつてMILKやPINK HOUSEを着ていた人たち) は、彼が設立したブランドMOI-MEME-MOITIE (モワメームモワティエ) のショップでMana様コーディネートを一式揃えることができた。MOI-MEME-MOITIE初期の2大ラインナップ、エレガントゴシックロリータ (EGL) とエレガントゴシックアリストクラット (EGA) はその後も長きにわたってロリータファッションに影響を与え続けた。

 

Image courtesy of fyeahlolita.com

またこの時期にはロリータファッションのアウトラインアイテムが定着する。白、黒、ピンク、サックスなどの人気カラーを組み合わせたエプロン、MARY JANES (メリージェーン) のシューズ、ブラウス、小型ペチコート、フリンジ、ヘッドドレスなど。ゴシックロリータのスタイルはロングコートにロングワンピース、ペチコート、プラットフォームヒールに濃いめのメイクが特徴。デザイナーから始まりモデルへ、そして消費者へ。全員の力で、ロリータファッションのベースとなる枠組みやルールが完成した。

 

Image courtesy of nippaku.wordpress.com

2000年から2009年までの10年間は、何でもありの大騒ぎ。ロリータも決して例外ではなかった。『Olive』 が廃刊になった一方で『KERA』 は名高い 『Gothic & Lolita Bible (ゴシック&ロリータバイブル)』 を作った。PRETTYは名称をANGELIC PRETTYに変え、ロリータのさまざまなサブスタイルに応じて多くのブランドが登場。BABYはかの有名なエリザベスワンピースを作ったが、これを映画 『下妻物語』 の主人公が着用したことで 「自立した孤高の存在」 というロリータイメージが生まれた。この作品でヒロイン桃子は、BABYのワンピースをまといロココ時代の憧れのフランス生活を妄想。彼女の興味や女らしさに着目すると、そのパーソナリティーは70年代の少女たちのライフスタイルに通じるものがある。ファッションで言うと、花柄プリントが人気で、パラソルかハンドバッグが必須アイテム。メイクは軽めでロングヘア、ヘッドドレスとペチコートで仕上げるスタイル。BABY登場から数年後、キュートなANGELIC PRETTYにさらに磨きがかかったOVER THE TOP (OTT) SWEET LOLITA (オーバーザトップスイートロリータ) が誕生した。フワフワしたピンクのウィッグ、鮮やかな色、カップケーキやテディベアのプリント柄にフラットなお茶会靴。レースや無地は姿を消し、一気にだれもがパステルカラーのケーキ柄やボリュームあるペチコートに夢中になった。
同じころ、ロリータは海外で人気を集めていた。METAMORPHOSE (メタモルフォーゼ) は初めて英語のオンラインビジネスを始め、BABY、ANGELIC PRETTYはヨーロッパと米国でブランドショップを開店。青木美沙子はロリータファッションを広めるための「カワイイ」大使に任命され、欧米ロリータ向けのLiveJournalのEGLコミュニティが誕生した。デザイナーのKammieは自身のブランドMINTY MIX (ミンティーミックス) を立ち上げた。その後もMINTY MIXは長期間、欧米ロリータファッションに影響を及ぼす。

90年代の突然の大流行に続く2000年からの10年間はロリータの蜜月期間と言ってよい。ロリータファッションは、国際的に認められたことでさらなる発展をとげ、国外からも入手しやすくなったブランドデザインのおかげもあって、ルールの範囲内でその可能性を最大限まで探ることができた。しかし残念ながら、すべて良い事には終わりが来るものだ。MOI-MEME-MOITIEはオンライン以外の全ショップをたたみ、BABYもパリの店を閉めた。雑誌 『KERA』、『FRUiTS』、『Gothic & Lolita Bible』 も2017年を最後に出版を終了。東京での大手ファストファッションの台頭、地域再開発、SNSネットワークの流行と様変わりする状況の中、愛好家たちはロリータファッションがじわじわと終焉に向かうのを恐れていた。

 

Image courtesy of lolita-tips.tumblr.com

昨今のロリータファッションは、以前よりもトーンダウンしてきたかのようだ。オールドスクールロリータとして知られる2000年代ファッションの人気が高い。BABYは「オールドスクール (懐古調)」スタイルの回帰に注目し、2000年代初期のアイコン的ワンピースを発売した。ロリータ人気は日本では衰えを見せてはいるものの、中国では人気上昇中。日本発のブランドが上海でお茶会を開きショップの開店もしているので、しばらくは安泰と言っていいだろう。人気の中国人ロリータXie Anran (シェ・アンラン) さんによれば、中国のロリータファッションは過度な制限がなくリラックスして着られる。コミュニティーではルールにとらわれず自由な着方を楽しむので、それが世界各国のファンに広がりつつあるという。見た感じは柔らかくエレガントな印象。オフショルダーになったり決まったアクセサリーなしで着たりする。仕上げはロングワンピースとお人形さんみたいなメイクだ。

さあ、現在のロリータファッションは実際のところ、どうだろう? 「カワイイ」カルチャー、日本人が憧れるフレンチファッション、Vivienne Westwoodによる英国の影響力、Mana様のヴィクトリア時代の英国愛とその他もろもろ。ロリータファッションとは、それら全部がミックスした日本のファッションだ。雑誌やブランドは現れては消えるが、ロリータを愛してやまない人々にとってそのスタイルは、もはや身体の一部である。
最後に、もしロリータと原宿の現状について不安を感じたらMana様の言葉を思い出そう。「ゴシックロリータとゴスロリ文化を愛する人々は永遠。私はこの世界をずっと守っていく。」

 

Written by Stefanie, translated by Tomoko.
Featured image courtesy of fashionsnap.com

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