ガーリーファッションの歴史; ドーリー系・カルトパーティー系・森ガール (Part 1)
薄いオフホワイトのブラウスやレースの重ね着コーデの少女を想像してみて。薄茶色のゆるふわなカーリーヘア。花柄の赤いトートバッグにはドールヘッドをつけて。くせのある見た目は、森にいそうな魔法使いみたい。ある人たちはこう思うだろう―彼女のファッションは、いわゆる「森系」に違いない。しかし別の人は「ドーリー系」だと思う。いや待てよ、「カルトパーティー系」では? これらのジャンルは2010年代に生まれ、特にこの3通りのファッションはしょっちゅうオーバーラップするため、ネット論争になるほどだ。でも心配ご無用。『The COMM』 が3つの原宿ファッションの実態と、日本人でさえ混同しがちな呼び名の理由を明らかにしよう。
「森系 (森ガール)」 という呼称は2006年、mixiのコミュニティーで生まれた。ある会員の装いが友人から「森にいそうな格好だね」と言われたのが始まり。アースカラーが基本で、レースや花柄が好き。大きめのスカーフ、ハンドメイド服、コットンやリネン素材のビンテージ・アイテムのコーデが基本スタイル。ゆったりシルエットで、木々にひそむ森の精のイメージ。2009年には「森ガール」 の名は日本全国に知れ渡り、森ガールを扱った雑誌や WONDERROCKET (ワンダーロケット) のようなブランドが大人気となる。流行最盛期には、ゆるふわなお下げ髪に花かんむりをかぶり、気ままで素朴な森ガールのストリートスナップをよく見かけた。今でもネット上の人気は根強いものの、2010年中頃にたちまち森ガールブームは終了。
「カルトパーティー系」 といえばファションブランドTHE VIRGIN MARY (ザ・バージンメリー)。 その前身は2006年に開店した CULT PARTY (カルトパーティー) だ。初めは高円寺にあったショップが原宿に移った。“女の子の聖域” がコンセプトのアイテムで知られ、ファンはブラウスやナイトガウンの重ね着を楽しむ。典型的なカルトパーティー系スタイルは、白っぽいパステルカラーを特徴とする。大きな赤い十字架やトートバッグでも有名だ。森系とは対照的に、タトゥーストッキング、濃いチークシャドー、80~90年代のアニメや漫画のキャラクターも幅広く使われる。後者はカルトパーティー系のパステル調ファッションと相まって、中野のビンテージショップSpank! やフェアリー系を彷彿とさせる。
この極めて優美なスタイルはカルトパーティー系として落ち着く前、GRIMOIRE (グリモワール) に代表されるようなアンティークファッションにかなり近いものだった。グリモワールは森ガール系にアースカラーをミックスしたようなブランド。こうしたオーバーラップのせいで混乱が起きたのは十分理解できる。カルトパーティー系も森ガールと同様、人気のピークの後まもなく2010年代中頃に消え去った。ショップの店員が 「カルトパーティー系」 と自称したがその名は日本では広まることはなく、ネット上で使われたのみだった。
「ドーリー系」は「ドーリー」、つまりGRIMOIREの店頭で売られるアクセサリーのラインアップから取った名前だ。2008年のGRIMOIREオープン時から、ドーリー系はネットコミュニティーでファッションを発信してきた。ところがこの呼称は国内はおろかGRIMOIREのクリエイター間でも浸透していない。ドーリー系の特徴は、濃い赤と緑、オフホワイトや明るい色が使われていること。森ガールやカルトパーティー系とは違い、ドーリー系の主なインスピレーションはヨーロッパの民話だ。刺しゅう、動物の毛や骨、ドールヘッドは売れ筋のアクセサリー。大きなスカーフ、重ね着やレースは主要アイテムだが、全体のシルエットはゆったりではなく、体にフィットしている。GRIMOIRE店内に入るとグリム童話の世界を訪れたような気分になる。さまざまな動植物の装飾品を用いたインテリアはヴィンテージ好きにとっては夢の世界だ。2010年代中頃にドーリー系人気が下火になった頃からGRIMOIREは主流ファッションとなる。
数年前GRIMOIREのデザイン性がドーリー系とされた時、東京ファッションでは論争が巻き起こった。反対する人々はGRIMOIREを間違いなくカルトパーティー系か森ガールだと主張する。3つのファッションは各々の違いよりも類似点の方が多く、区別しにくい。TOKYO BOPPER SHOES (トーキョーボッパー靴店) からナチュラルカラー、レース&ブラウスの重ね着にいたるまで、共通点だらけ。ゆるふわヘア、花かんむり、手作りっぽさも3者共通パターン。 カルトパーティー系がポップな感じが強い一方で、森ガールは堅実でドーリー系はコワ可愛い一面がある。だが3つの境界線はあいまいだ。ドーリー系の十字架などのモチーフはカルトパーティー系でも使われているし、GRIMOIREの5周年記念パーティーでは、ドーリー系や森ガールたちがフェアリー系デザインのグッズをSpank! のTavchi (タブチ) から買っていた。
森ガールは日本で人気を集めたが、カルトパーティー系とドーリー系は単に、ジャンルとして確立するための十分な時間がなかった。それでも3つのファッションは変化しながら発展を遂げ、結果的にオーバーラップし合っている。日本のストリートファッションのほとんどは他のファッションとの関わりを通じて変わってきたので、そもそも公式なジャンル分けは存在しない。ラベル付けの決定権は、わたしたち自身が持っているのだ。
Written by Stefanie, translated by Tomoko.