『アダムス・ファミリー』: 水曜日生まれの子は不幸
Charles Addams (チャールズ・アダムス) は米国ニュージャージー州で育ち、父から絵を描くよう勧められた。地元の墓地を散歩するのが好きで、雑誌 『True Detective (トゥルー・ディテクティヴ)』 のレイアウト部門に就職した。Addamsに関しては多くの噂があったが、ほとんどが不気味なものだった。棺桶の中で眠るとか、家にギロチン台があるとか、オリーブの代わりに眼球入りのマティーニを呑むとか。しかし、これらの噂の出どころはわからない。実はこれが、Addamsが作りだしたダークなキャラクターにいくらかの信ぴょう性を与える結果につながった。彼を知る人によると、Addamsには比類のないユーモアのセンスがあり、どこかUncle Fester (フェスタ―おじさん) に似ているという。Addamsの3度の結婚は「3度目の正直」が正しいことを証明した。最初の妻は養子縁組を望んだが、Addamsはこれを拒んだ (彼のちょっとした火遊びも事態を悪化させた)。このマンガ家は「小さな子どもが嫌い」だったため二人は1950年に離婚した。2回目は、妻がAddamsに10万ドルの保険をかけたことが原因で結婚生活はあっけなく終わった。そして最後の妻とは、親しみをこめて命名した 「The Swamp (スワンプ)」 という彼の所有する土地で、1988年に心臓発作で亡くなるまでの日々を過ごした。彼の遺産は彼の子どもにではなく (子ども嫌いでしたよね)、作品に受け継がれていった。
『Addams Family (アダムス・ファミリー)』 は1930年代後半に雑誌 『The New Yorker (ザ・ニューヨーカー)』 でデビューした。この不気味なファミリーは、家長のGomez Addam (ゴメズ・アダムス)、女家長のMorticia Addams (モ―ティシア・アダムス)、子どものPugsley Addams (パグズリー・アダムス) とWednesday Addams (ウェンズデー・アダムス)、Uncle Fester (フェスタ―おじさん)、Grandma (グラニー)、Cousin Itt (カズン・イット)、Thing (ハンド)、執事のLurch (ラーチ) で構成される。オンボロでありながらオシャレな大邸宅に住む奇怪な大家族は、アメリカの家族というものの概念をことごとくひっくり返した。1991年に同名の漫画がBarry Sonnenfield (バリー・ソネンフェルド) 監督によってAnjelica Huston (アンジェリカ・ヒューストン)、Raul Julia (ラウル・ジュリア)、当時10歳だったChristina Ricci (クリスティーナ・リッチ) らのキャストで映画化された。ストーリーがバラバラで評価が分かれたが、結局どうでもよくなった。風変りなキャラクターのオンパレードとタイミングぴったりのジョークが、「変」だけれどクールな作品としてウケたからである。この映画が公開されたのは1980~90年代のサタニック・パニックと同時期だった。というより恐らくそれがこの映画公開の原因だったのかも知れない。当時他に上映されていた作品には 『Ghostbusters (ゴーストバスターズ、1984)』、『Beetlejuice (ビートルジュース、1988)』、『The Nightmare Before Christmas (ナイトメアー・ビフォア・クリスマス、1993)』 などがある。
Image courtesy of IMDb.
この映画にキャスティングされた時、Ricciはすでに実質的にはベテラン女優だった。その1年前にラブコメディの 『Mermaids (恋する人魚たち、1990)』 でCher (シェール) やWinona Ryder (ウィノナ・ライダー) と共演してスクリーンデビューを果たしていたからだ。その後Tim Burton (ティム・バートン) と仕事をしてCaptain Jack Sparrow (ジャック・スパロウ船長) その人、Johnny Depp (ジョニー・デップ) との熱いキスシーンまで経験した。しかし、Christina Ricciは今でも時々、死の影にとりつかれ、実年齢より年上の役を演じていた10歳のゴス系少女のままに見える。Wednesdayはあまりに率直で、超冷静で、非常に優秀だがいささかモラルに欠ける。死へのゾッとするほど強い興味にかられて弟のPugsleyを実験台にする。黒髪で、長い三つ編みをお下げにして、服装はたいてい、白いピーターパンカラーのついた漆黒のワンピース (レースの場合もある) に黒ストッキングと黒い靴の組み合わせだ。ダークなクラシックファッションはひどく古くさく、いかにもこの奇妙な家族の一員らしい。いつも両目の下にくまを作って生気のない顔に、まったく飾り気のない性格。子守歌の「水曜日に生まれた子は不幸」を地で行くWednesdayなのだ。
Charles Addamsは1930年代の「理想的な」家族とは正反対の家族をつくり出した。Wednesday Addamsは自信たっぷりで、何事も独力でやることを恐れない。頭がよく、機知に富み、いつも熱心に知りたがる——そのサディズムはAddamsのブラックユーモアの現れである。彼の子ども嫌いを考えれば、Wednesdayがここまで子どもらしくなく描かれたことも不思議ではない。
近年、かつての1990年代~2000年代始めの栄光を懐かしむ今の社会気風と並行して、meme (ミーム) はどこでも目にする人気の高い表現手段になった。なぜだろう? アクセスしやすく、簡単に楽しめて「ちょっと変えるだけ」でリサイクルもできるし、同じ画像、動画、テキストを再利用できるため、わざわざゼロから作る必要もないからだ。実は、Wednesday Addamsは変化がないため絶好のミーム素材である。1時間39分の『The Addams Family (1991)』 の動画のどこでも、好きな所で一時停止してみよう。特徴的な三つ編みで、ピーターパンカラーのついた黒ドレスを着た無表情な彼女に会える。
Images courtesy of ZevenCross via Imgur and Memegenerator.
他人に左右されず自分の生き方を貫くという彼女の姿勢は、Tumblr (タンブラー)、Pinterest (ピンタレスト)、その後Instagram (インスタグラム) などのSNSで人々に注目された。大部分の人にとって、青年期は困難な時期である。ホルモン分泌が盛んで顔はニキビだらけ、体はゆっくりとHulk (ハルク) みたいに成長するし、大人としての行動を要求される一方で常に子ども扱いされ、ソーシャルメディアでは自分を商品化するための圧倒的なプレッシャーが存在するためだ。21世紀バージョンのWednesday Addamsならば、Pugsleyを使った成長を加速させるハイリスクな実験によって、思春期をうまく回避する方法を発明してくれるだろう。
そんなキャラクターのWednesdayは、危険人物、変わり者で反逆児だ。周囲の流れに無理に合わせなくても、午前7時から午後1時まではこの世の人間全てを好きになれなくてもオッケーの人。彼女の人生はとんでもなく型破りで非常識だが、日々の生活にかまけて飽和状態に陥ったときの全身倦怠感に効く解毒剤になる。または、もっとシンプルに考えてみるとWednesday Addamsは「不機嫌」だからこそ、今のわたしたちの気持ちにぴったりくるのかもね。
Written by Anna, translated by Tomoko.
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