未来の布
布地なしのファッションなどない。さまざまな形状、色、質感、素材の布。科学と技術の発展に伴って、布地も伝統的な制限から解放されていい。デニムやコットンを越えて、布というものがどこまで進化できるのか想像の翼を広げてみよう! 世界は、日本による未来の技術革新に期待を寄せているので――その理由として、西洋のテクノ・オリエンタリズムへの憧れや、それによる自国の産業へのメリットなどがある――さあ、SF映画から飛び出してきたような未来の布地を見てみよう。
ウェアラブルな太陽電池
ファッションショーをネットでリサーチしまくった一日の最後には、死にかけのスマホを充電してあげなくちゃ! でも、もし太陽電池の生地でできた服を着ていたら、ポケットにスマホを入れるだけで充電完了。福井県で2012年に開発されたこの未来の布は、太陽光をエネルギーに変えるウェハースのように薄い布型太陽電池からできている。すごい点は、布以上の価値があるということ――持続可能なエネルギー活動の一端になるのだ。今はまだ商品化を目指して開発中だが (さらなる耐久性が必要なため)、布型太陽電池の研究者はすでに今後の開発契約も済んでいる。
天女の羽衣
「(お客様は) 他にはない特性をもつ素材を求めて、ここへいらっしゃいます」 と天池源受 (あまいけ・もとつぐ) 社長は言う。アマイケ合繊の過去の事業はチタン被膜と網繊維などだった。当初、プラズマテレビ用のシールド材を求めていた顧客に頼まれたのがきっかけで、アマイケは世界最軽量の繊維という前代未聞の発明をすることになる。普通の薄くて透けるような布地は軽く半透明で微妙に揺らめく。だが天池の 「天女の羽衣」 の糸は人間の髪の5分の1の細さで、まるで空気だ! あたかも水彩画が動き出すように、着る人の動きにしなやかに馴染む。1平方メートルで5グラムしかなく、着けているのを忘れてしまうほどの軽さだ。絹と鋼鉄という意外な組み合わせから出来ている 「天女の羽衣」 は、やがて布という概念の限界への挑戦となるだろう。これぞ繊維のスーパーマン!
木糸の織物
「和紙の布」 社の 「木糸」 から作った織物を通じて森と一心同体になろう。この織物は、木の繊維を特殊な方法で編んだものだ。もともとは大阪の森に生えていた自然の木で、ほとんどはスギやヒノキだ。森林の健康を守り、地滑り防止のために林野庁が伐採した木々を、「和紙の布」 社がリサイクルしている。木糸がなかったら、こうしたウッドチップはただのゴミでしかない。ゴミどころかこの会社が関わるとウッドチップは木糸になり、和紙になり、最終的に麻に似た軽量な布地に変身する。編めば帽子になるし、またはパリッとしたボタンダウン・シャツにもなれる布に変わるのだ。この会社が次に目指すのは野菜染めだ。率先して地球に優しい企業であり続けようとしている。
圧電技術
日本はアスレジャー技術で先陣を切ろうとしている。軽くて快適なスポーツウェアを生み出すUNIQLOのエアリズム・テクノロジーは、既に多くの人も知るところだ。それどころか、着てみるとさらに別のハイテク機能があるとしたらどう? PIECLEX (ピエクレックス) は2つの大手テキスタイル企業間のコラボレーションであり、圧電効果のある繊維を多くの消費者に広めている。「圧電」 という名称は、身体を伸ばしたり動かしたりなど、人が動くことで電気を発生させる繊維が持つ能力に由来する。なおかつ、汗を分解する抗菌作用もある――つまり、同時に消臭もしてくれるのだ。こうした多様な機能のため、この布はアスレジャー専用でなく肌着類、抗菌衛生品他、その用途は無限だろう!
西陣織の科学
細尾真孝にとって、自分のルーツに立ち返ることは不可欠だ。HOSOO STUDIESという京都をベースとした家族経営の織物メーカー及び研究事業を通して、彼は6世紀の織物と21世紀のテクノロジーとのつながりを模索する。
細尾氏は西陣織を長年織り続けてきた呉服屋の12代目社長だ。14人の職人を抱える彼の小さなアトリエでは各々の職人が織り上がるまでの複雑な工程を一つずつマスターし、中には人間国宝の熟練職人もいる。だがこの長い家業の歴史にも関わらず、彼らは革新的なやり方を拒絶しない。コンピュータ―が生成する結晶織りの研究にも、着物を越えたライフスタイル製品として西陣織を取り込むアイデアにも取り組むのだ。細尾氏にとっては織物と美しさは常につながっている。
クモのバイオスモッキング
1種類の優れた生地に特化することに専念する職人もいる中で、中里氏の全ての作品には色々な試みや技術がみられる。植物由来のものを使い、衣類の再資源化に取り組む彼の作品にはオーガニックコットンや手染めのインディゴレース (藍染め) が多く用いられている。日本の伝統的な織物 (西陣織) に対する彼の試みは、クモの糸の構造に着想を得たものだ。だがクモ恐怖症の人でも大丈夫。クモの代わりに “Brewed Protein (ブリュード・プロテイン)” というサトウキビやコーンスターチから作った植物繊維を使うからだ。こうした独自技術を手に、中里氏は2022年秋冬コレクション 「Blue」 の中で 魅惑的な質感の生地とナチュラルカラーを使って 「バイオスモッキング」 の将来性について展示した。それは彼の言う 「伝統と革新の融合」 だった。
クモの糸にインスパイアされた織物から空気よりも軽い布まで、未来の布の可能性がどんな感じなのかを見てきた。そこではファッション、産業、テクノロジーが互いに重なり合う。ある人の新しい持続可能なエネルギー源が、別の人にとっては芸術的な夢になる。これらの布地を使ってあなたが作りたいと思うのは何? どんな服を着たいかを教えてください!
Written by Selina, translated by Tomoko.