The COMM

原宿は死んだままなのか?:『FRUiTS』 のその後は?

1997年に青木正一氏は、日本のストリートファッションを紹介するための世界的な雑誌となる『FRUiTS』を創刊した。ところが2017年、創刊以来ずっと日本のストリートファッションを記録しつづけてきた同誌の休刊が発表される。「オシャレな子が撮れなくなった」 という青木氏の発言が伝えられるとネット上で大騒ぎになる。『The COMM』も含めた誰もが、氏の言葉の真意を明らかにしてほしいとコメントした。クールなファッションの人は、もはやいないということ? それとも、ストリートファッションは超ダサくなったから、青木氏はもうスナップを撮る気が湧かなくなったのだろうか。

『FRUiTS』誌 は青木氏の初めての雑誌というわけではなかった。実際、彼は1980年代から90年代にかけて『STREET』誌を数年間手がけた後、活動の拠点を東京へ戻すことにした。『STREET』や『FRUiTS』、『Tune (『FRUiTS』 の後に出版) 』。これらの雑誌のコンセプトはストリートにおけるサブカルチャー的ファッションを記録することだった。ファッションは、もはやファッションショーだけに限定されたものではなく、上流階級の目を楽しませるだけのものでもないことに青木氏は気付いたのだ。ファッションとは、着る人自身の心をストリートにおいてリアルタイムで表現するもの。東京の若者の愉快でフレッシュなファッションは、世界中の人々の注目を集めた。日本での雑誌の人気が高まりつづけるなか、イギリスのPhaidon社が『FRUiTS』からのベストショットを集めた写真集を出版した。幅広い読者層を想定して英語に翻訳されている。こうして『FRUiTS』は多くの人々に知れ渡っていった。時代の変化と共にインターネットが普及すると、『FRUiTS』からのスナップがLiveJournal (※) のようなフォーラムで広まり、Tumblrでは数えきれないほどリブログされるようになる。『FRUiTS』のデジタル化はすでに始まっていた。

※ブログサービス名

 

Image courtesy of i-D Vice.

駈け足で現在へ進むと、小規模書店で『FRUiTS』誌を見つけることは難しい。今の時代『FRUiTS』のスナップを見る最も簡単な方法は、その他多くのサブカルチャースタイル同様、オンラインで見ること——特にInstagramの利用が必要だ。青木氏は『FRUiTS』のネット進出とInstagramの世界への仲間入りを1つのチャンスと考えた。そこでInstagramのアカウントを『FRUiTS』のために1つと、全アーカイブ展示用に1つ作った。
@fruits_magazine_archives はChris Tordoff (クリス・トードフ) さんが運営するアーカイブ・アカウントで8,000人ものフォロワー数を誇る。ここには青木氏が20年間続いた同誌の中で撮影してきた日々のスナップが掲載されている。

「Instagramのしたことは、紙の雑誌では
ありえない方法で、当時の日本のストリートファッションを
たちまち世界中に認識させたことだ」

徐々に進化していくファッションを見るのは壮観だ。ごく小さなトレンドの盛衰、のちにストリートファッションのスーパースターになった人たちが無名だった頃の顔。だが、紙の雑誌からInstagramのようなメディアを使ったオンラインマガジンへの移行において何か失うものがあるとしたら? Chrisさんは、Instagramでは原宿の複雑で微妙なストーリーを完全にとらえることは難しいと言う。「印刷媒体の『FRUiTS』には、70年代英国パンクのミニコミ誌を彷彿とさせるような美学があり、同時に、ページには原宿キッズたちの手づくり感がぎっしり詰まっていました。ユニークで、いろいろ考えさせられる内容だったのです」 とChrisさん。原宿の街を『FRUiTS』のページをめくりながらぶらつく自分は想像できるが、Instagram画面をスクロールするのは想像できない。とは言っても、Instagramが日本のストリートファッションに良い影響を及ぼすことは明らかだ。「Instagramがしたことは、紙の雑誌ではありえない方法で、当時の日本のストリートファッションをたちまち世界中に認識させたことです」。

Instagramは日本のストリートファッションを見いだす方法だけでなく、理解する方法も変えた。Instagram上で「ファッション」のアカウントが増加した。短くても気の利いた解説付きの、90年代当時、日本で有名な場所や人の写真。Chrisさんにとっては、コンテンツを見た人が日本のストリートファッションの歴史をもっと深く知りたい気持ちになるかぎり、Instagramアカウントはその使命を果たしているということ。実際、今の世代が『FRUiTS』にこれほど夢中なのもInstagramのおかげだ。フォロワーの中心が紙の『FRUiTS』だった頃の熱烈なファンから、Instagramで 『FRUiTS』を知った若いZ世代 (※) ファンへと変化したことにChrisさんは気づいた。Z世代の中には、当時のファッションについて時代を超えた永遠のスタイルだという人とあまり好意的でない人がいて、後者には 『FRUiTS』が掲載する一部のトレンドは「ファッション音痴」でありこうしたスタイルの存在自体が信じられない、と豪語する人もいる。

※1990年代後半以降の、インターネットや携帯電話の環境に生まれ育った世代。

 

Image courtesy of Otaquest.

印刷物とInstagramの両方で、『FRUiTS』は原宿のノスタルジーを捕らえて時の中に封じ込める。たいていの人は90年代から2000年始めにかけて流行ったギャルやロリータ、デコラのような特徴的スタイルだと思うだろう。Chrisさんは、このトレンドにも気づいていたが『FRUiTS』のアーカイブ・アカウントの 「欠点も包み隠さず、ありのまま」 なファッションを紹介することが『FRUiTS』と日本のストリートファッションに関するわたしたちの視野を広げるのに役立つことを願っている。たとえその中に期待はずれの写真があったとしても。

では、『FRUiTS』アーカイブは次にどうなるのか? 2005年以降、原宿ではクリエイティブなファッションは落ち着き、ベージュやアースカラーの服でノームコア (※) の時代を経験した。Chrisさんは、その影響がストリートファッションに対するみんなのワクワク感に影響しないことを望んでいる。「みんなが『FRUiTS』に来て楽しんでくれるかぎり、全力でInstagramのコンテンツを拡充していくつもりです! 」という。印刷したものを買うのなら『FRUiTS』のInstagramアカウントをチェックしていよう。青木氏は年ごとの選りすぐりのストリートスナップを集めたYearbooksの発売を開始した。

                ※気取らない通常の服装を特徴としたユニセックスなファッショントレンド

雑誌『FRUiTS』はこれまでなかなか面白い道を歩んできた。世界的な成功をおさめ、日本のストリートファッションについての最もメジャーな出版物となり、その後インターネットの時代にはノスタルジックな存在となった。『FRUiTS』のアーカイブ・アカウントの登場によって、日本のストリートファッションが新たな若い読者に開放されたことは間違いないが、古くからのファンにとっても、原宿カルチャーと初めて出会ったときの感動がよみがえった。おそらく、『KERA』や『Zipper』などの雑誌も、この『FRUiTS』デジタル化の後に続くだろう。わたしたちはその恩恵を受けて、ハートを奪われた日本のストリートファッションを楽しみ、懐かしい思い出に浸ることにしよう。

 

Written by Choom, translated by Tomoko.
Featured image courtesy of i-D Vice.

Post a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *