ゴシック vs クラシック: ロリータの持つ興味深い二面性
ゴシックロリータとクラシックロリータは、ロリータファッションの中で対極に位置する。ゴシックロリータは、ダークでキュート、かつ大胆さがあり、クラシックロリータは、おとぎ話の世界のような、ロココ様式で上品な雰囲気だ。1つのコインに表と裏があるように、この異なる2つのロリータは、人間の本質を見事に象徴している。わたしたち人間には、光があれば闇もある。そのことを、これ以上ないくらいに的確に反映しているのが、Robert Louis Stevenson (ロバート・ルイス・スティーブンソン) の『The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde (ジキル博士とハイド氏) 』だ。この古典的ゴシック小説では、友好的なDr. Jekyll (ジキル博士) が、自身の醜悪な分身であるMr. Hyde (ハイド氏) の存在と闘っていて、2人の男は光と闇の間で揺れ動く人間の内面を表している。そしてそれぞれが悲惨な終焉を迎えた。Dr. Jekyllは自殺し、Mr. Hydeは身体をひどくねじり、ぴくぴくさせ、息も絶え絶えに床の上に転がっている。さて、ここで問おう。闇なくして光は存在しうるだろうか?
はじめは、Dr. JekyllとMr. Hydeには、同じ身体を共有していること以外の共通点は何もないように思うだろう。同じく、ゴシックロリータとクラシックロリータも正反対だ。しかしロリータファッションには、きっちり守るべき土台となる共通要素がある。ヘッドピース、ブラウス、ドレス (もしくはスカート)、ペチコート、ブルマ、靴下、そしてつま先の丸い靴がそうだ。どちらも上品で、大胆だったり控えめだったりする。また両者ともお城が好きで、しょっちゅう撮影スポットにしている。あと、ロリータはみんなティーパーティーが大好きだ! しかし何より重要なことは、この2つのファッションが20世紀後半の原宿で生まれたストリートスタイルであるということだろう。
Image courtesy of Juliette et Justine.
クラシックロリータとゴシックロリータの見た目の類似性は、「ドッペルゲンガー」だと言ってもいいくらいだ。ドイツ語で「生身の人間の生き写し」を意味し、不幸を予告する霊的なものや超常現象として示唆されたり、または悪魔の双子であったりする。Dr. Jekyllは「人間は本来一人ではなく、二人である」と主張し、そのために醜悪な自分、つまりドッペルゲンガーであるMr. Hydeを生み出すに至った。ロリータファッションで言えば、ゴシックロリータはクラシックロリータのドッペルゲンガーであるということだろう。
ワイドなAラインスカートや明るい色、花のモチーフを取り入れたクラシックロリータは、ロココ調の美学を、ロリータファッションが演劇風に置き換えたものだ。このサブカルスタイルは、ロココ・リバイバルのピークであった1990年代に、BABY, THE STARS SHINE BRIGHT (通称、ベイビー) やANGELIC PRETTY (アンジェリック・プリティ) といったロリータブランドの台頭とともに誕生した。クラシックロリータは花柄やストライプ、王冠やフルール・ド・リス、紋章、動物などのモチーフ、そして古い名画の複製などを取り入れていて、常に気ままでやわらかい雰囲気がある。クラシックロリータを着た人たちのたいていは、ヨーロッパの田園風景の中で本を読んだりクラシック音楽を聴いたりしているところを写真に撮ったりする。
Image courtesy of Moi Dix Mois.
ゴシックロリータは、ロリータファッションのダークサイドを探り、それを表現する術として登場した。十字架などの宗教的なイメージや、薔薇、教会や大聖堂、ステンドグラスなどのゴシック時代の建築がそのモチーフである。その昔、ヴィジュアル系のライブでロリータをよく目にしていたのには、ヴィジュアル系ロックバンドMALICE MIZER (マリスミゼル) のMana様の存在があった。彼は、ヴィクトリア朝風のダークなロングドレスに濃いメイク、ロザリオを合わせた自分のスタイルをゴシックロリータと呼び、Moi-même-Moitié (モワ・メーム・モワティエ) というブランドをも立ち上げたギタリストだ。ブランド名を簡単に訳すと「私自身のもう半分」で、ゴシックロリータが何か他のものの対として存在しているという意識を表している。ファンはすぐにこのスタイルを真似し、Mana様はゴシックロリータの流行と定義において重要な人物となった。冒険的で大胆なゴシックロリータは、控えめで高貴なクラシックロリータと相反するものとなったのだ。
Image courtesy of F Yeah Lolita.
Dr. Jekyllが自身の思考のはけ口としてMr. Hydeに変身していたように、ゴシックロリータの誕生により、ふわふわしたイメージの強いロリータファッションの、ダークな面を探ることができるようになった。ゴシックロリータとクラシックロリータは、基本的なシルエットが同じで、ヨーロッパからインスピレーションを受け、そしてティーパーティーを愛しているという点で結びついている。同一線上で反対に位置し、お互いを差別化することで、それぞれの特徴を色濃くしている。そうなると、一方のサブカルスタイルをもう一方と切り離して考えることは難しい。ここでDr. JekyllとMr. Hydeの話に戻ってみよう。片方が死ぬと、もう片方も死ぬ。だからDr. Jekyllは、自分ではコントロール不能となった自身の醜悪な部分から逃れようと、自殺を決意したのだ。ゴシックロリータとクラシックロリータの両方が自然と展開されたのは、同じように不可逆的なものであろう。
ゴシックロリータとクラシックロリータはまったく違って見えるが、共存すればお互いを認め合うことができる。1つのコインに2つの面があるように、ロリータであるために2つのファッションはお互いを必要としているのだ。
Written by Stefanie, translated by Chinatsu.