1月 2019

長年の疑問だけど…クリエイティブな情熱を活かしたキャリアを追求するためには高等教育を受けるべきなのか、それとも実世界で成功するには自分自身で鍛錬すれば足るのだろうか? どちらの道に進むにしても、リスクが大きいように感じられ、解決策にたどり着くのは大変だ。すべての資金と情熱を学校につぎ込むこともできるが、現在の経済情勢では、仕事を得られるという保証もない。あるいは自分自身で、忙しい仕事のスケジュールの合間に時間をもっと割いてみることもできるが、業界へのコネクションは簡単には見つからないし、正しい道を進んでいるかどうかを知る術もない。 大学で自分の情熱を追求することの良い点・悪い点となると、ネットワークづくりや、自分のスキル水準の保証といった辺りのトピックに依拠することになる。存在する具体的な情報をすべて検索したい気持ちには抗し難く、それで落胆していっそう辛くなる。では、どうやったらそのスパイラルから抜け出せるのだろうか。 とはいえ、答えを提示することは『The COMM』にはできない。しかし、このジレンマにかつて向き合ったことがあるファッションの学生に尋ねてみることならできる。 わたしたちは東京にある文化服装学院の学生、Domi Szmidさん (@domsyn) へのインタビューを行った。衣服のデザインという夢を、大学で追いかけることを選んだ経験、そしてなぜ故郷の国ポーランドとは対極にある日本で勉強することにしたのかについて、話を聞いた。Domiさんが1年前、まさにこの質問を自分自身に問うたとき、夢であるファッションのキャリアへとうまくつながる折衷案に行き着いた。 文化服装学院は、普通のフルタイム2年間の学部コースと並び、そのプログラムの一部を夜間授業で3年間かけて教える、パートタイムコースも開講している。このことは日本語話者ではない志願者にとっては驚きかもしれない。英語のウェブサイトでは宣伝されていないからだ。これは、文化服装学院が夜間コースの申込者には、学生ビザのサポートができないためである。つまり、日本のどこでも働いたり勉強したりすることができるのなら、志願者はすでに流暢な日本語話者であると言えるだろう。 Domiさんの場合、このコースが彼女にとって選択肢となることを友人から聞いたときには、すでに日本で働いていて、次のステップを考えているところだった。 「文化服装学院の夜間コースには、2つの専攻しかありません。服装科とファッション流通科です。私は服装科に所属しています。基本的に裁縫やパターンメーキングのような実践的な授業と、デザインの授業を組み合わせたものです。」とDomiさん。 著名なファッション学校で学ぶ利点は、最高峰のインターンシップを見つけやすいことや、業界に直接に繋がることができるだけでなく、一緒に学ぶ学生達が、将来のデザイナーであるということだ。一緒に働く人々がみんな友達だったなら、卒業後に何かを始めることも、もっと容易になる。 そして、もし日本で外国人として勉強しているなら、高等教育機関に所属することで履歴書の説得力が増す。国民ではない人々が長期滞在に苦労する国において、人生に影響するこのような決断をしたなら、未来の雇い主から重要な人材だと思われるだろう。 「文化に入学して、本当にたくさんのことが変わりました。」とDomiさんは言う。「それまで、日本で仕事をしていたときも、ファッションに関係あるイベントや集まりには参加していました。でもやっぱり、『ハーイ、私外国人、働いて英語を教えてるの』っていうだけでは、あまり関心を持ってもらえない。」 もうひとつの鍵となる要素は、独学と比較したときの、学校で得られる技術のレベルの高さだ。ファッション制作の仕事は、リードデザイナーやテイラーや、業界標準の枠に限られるものではない (将来のパターナーや裁縫師にも教育が必要だが) 。独学の場合、埋めなければならない自身の知識のギャップに、気がつかないかもしれない。 もし日本――この非常に独特で徹底的な就労文化がある国――で働くことを考えているのなら、働く前にこの国の教育を受けることは大きな強みになるだろう。日本の教育文化を学ぶことは、日本の就労文化への心構えにもなる。 学校では学べないことを考慮するのも、当然ながら決断するときには重要だ。 具体的に言うと、文化服装学院で勉強を進める間、クリエイティビティをコントロールし続けるのが難しいと、Domiさんは感じているのだという。最初の何年かの間は、技術の完璧さに重点が置かれ、評価されるからだ。さらに、生まれ持った才能と傑出したコーディネートの維持も、ファッションの学生にとって大変なことだ。「自分がクールだとわかっていて、人も真似したがる、そんなスタイルを持っている人もいます。しかしその一方で、ファッションに興味はあっても、そこまでの才能を持たない人もいるのです。とてもきついことだと思います。」 もしこのようなセンスを持っていなかったら? これは共通の不安だろう。しかし同時に、ファッション学校は、これまで述べてきたような将来のデザイナーのためだけのものではない。他の高度な専門技術もキャリアに活用できるかもしれない。しかし、まずは学ばなければ! 「先生がある女の子に (彼女が制作している) ドレスを見せるよう求めましたが、ステッチが本当に完璧な真っ直ぐでないことが先生は気に入らなかったんです。先生は小さなハサミを手に取って、クラス全員を呼び集め、全部切ってしまったんです。」 もちろん、世界中の多くのクリエイティブな学校で行われている、この愛のムチ的なやり方は、万人の好みではないかもしれない。しかし、それが成果を挙げていることも認めなければならない。 多くの人の最大の懸念は、文化服装学院のような学校でかかる金銭的コストだ――ここでは、その心配を過小評価するつもりは一切ない。しかしこの記事の核心は、一般的に白か黒の問題だと思われることに対して、もっと微妙な位置づけの解決策を提示することにある。 Domiさんは日中クラスの生徒の3分の1にあたる授業料しか払っていないが、キャンパス設備や関連するデザインの授業、そして「文化」の業界ネットワークへの完全なアクセスがある。彼女は日中クラスの学生とも会って、友達を作っている。フルタイムの仕事と文化服装学院の授業とを両立しているのは、Domiさんだけではない。同じコースに所属する彼女の友人は「文化」と同時に、もう1つ学位を取るためにフルタイムで学んでいる。 「彼のことは本当に大好きで尊敬してます。日中は早稲田で工学をやっていて、夜は文化に来てドレスを作っているの。」 そしてファッションの学校は、業界の新入りのためだけの選択肢ではない。「異なる分野から、ネットワークづくりのためにここへ来ている人もいますよ。例えば仕立てや、スーツ制作の仕事をしていて、でも自分のブランドを立ち上げることを考えている。そこで文化に来て、知り合いを作る。」ファッションの専門家にとっては、夜間コースで充分かもしれない。 もちろん、フルタイムの仕事で勉強資金を稼ぐことができればリスクは減る。しかしDomiさんと話してわかったことは、学校へ行く価値は計り知れないがやはり、財布には厳しい。とはいえ、ひそかに隠された選択肢も、本当に成功したい人のためには存在するのだ。結局のところ、意欲のあるところに道はある!

「文化」 (文化服装学院、文化学園大学、文化ファッション大学院大学、文化外国語専門学校が含まれる) は毎年学園祭を開催している――しかしこれは、他にはない学園祭だ。3日間にわたり、学生の渾身の作品と、大学の学科の設備を紹介する。大学のビルの各階で、学生による学年・学科ごとの展示や、教員が案内する学科のワークショップとツアー、そしてメインイベントのファッションショーなどが行われている。 ショーは文化服装学院の学生によって企画されており、コレクションを創り出すのはデザインの学生たちだ。関連学科のクラスメートの助けだけでなく、生地を提供してくれる個性的なスポンサー企業のおかげで、素晴らしい衣装が制作される。 この3日間の華やかなショーは一般にも公開されているので、ぜひご自身の目で確かめてみてください! 新宿に向かってみると、文化服装学院に近づけば近づくほど、おしゃれな若者の数が劇的に増えてきた。「文化」の学生のファッションは、若くても落ち着いていて、入念に選ばれたものだ。これらの FENDI (フェンディ) と古着を着た人たちが20代だとは思ってもみなかった。 「ネオ・トラッド」で特集した優さんのおかげで、わたしたちは最前列の特別席に座ることができた。優さんはショーで披露されたコレクションのひとつを担当していた。高くせり上がったランウェイと、専門的な照明のセッティングは、本物のファッションショーのようだった。今年のテーマはInstagramで説明されている「@?」。 「@=atは位置を表す前置詞です。今の時代SNSは、私たちのもう1つの居場所と言えるでしょう。ご来場の皆様には「リアリティ」や「人間性」を感じてもらいたいと思いこのテーマにいたしました。」 (bunka_show_official公式Instagramより) ショーで撮った写真をチェックしてみてください! フル動画はこちらからご覧ください。 素晴らしいショーの後は、優さんが案内をしてくれた。それぞれのコレクションの生地がどのように選択されたか、テーマの内容は何かを、当事者の視点から説明してくれた。各コレクションにどれだけの作業や準備が費やされているのか、教えてもらうのはとてもおもしろかった。学生の大多数は20代で2年生なのに、素晴らしい技術力を持っていることにも驚いた。 それから、様々な販売ブースと、学生や教員による展示を見ながらキャンパスを探検した。あまりに多くて、すべてを見るわけにはいかなったけれど。展示やワークショップは各教室にあった。衣類に関わるテクノロジーの学科を偶然見つけたのだが、先生がわたしたちを案内してくれた。衣類を作るのにどれだけの調査や科学的研究が必要なのか、おもしろくて目を見張るものがあった。例えば、生地が気温の変化に対応するか、着るとどのように体に影響を及ぼすのか、理解するために研究機関では実験が行われている。スポーツウェアからユニクロのヒートテックのコレクションまで、基本的だが不可欠な暖かい衣類を作るのに、どのくらいの努力が関わっているのか、忘れてはならない。 在学生の作品を見ることも、学園祭のハイライトとなった。「文化」の学生には、靴、ニットウェアまたはアクセサリーなど、特定のアイテムに注力する機会がある。展示された作品の水準はとても高かった――技術的に見て完璧なだけでなく、デザインの想像性も高かった。撮影禁止なので、残念ながら写真は撮れなかったが、信じてほしい! わたしたちは数時間しか過ごせなかったが、もし文化祭が行われる時期に東京にいることがあれば、訪れてみてほしい! 「文化」には、必ず大きなインスピレーションを与えてくれる、若いクリエイティブがあふれている。

あらゆる分野で活躍するクリエイティブな人々が、楽しく過ごし、お互いの作品を褒めたたえるために、渋谷の EDGEof で開催された ON-1 Collective (※) のイベント「Vol. 6」にどっと押し寄せた――来場者として、もしくはパフォーマーとしてだ。「Amazon Fashion Week

ON-1 Collective (※) のイベント「Vol. 6」のために、『The COMM』が準備したファッションショーを観てください!全方位カメラを持ってランウェイを歩くモデルたち—ファッションとテクノロギーの素晴らしい組み合わせですね! ショーを観られるだけではなく、まるでショーの一部になったかのように感じられるでしょ! ※ON-1 Collectiveはメディアプラットフォームで、東京に活動の拠点を置くクリエイティブなコミュニティーを毎月紹介するイベントです。

ON-1 Collective (※) のイベント「Vol. 6」での、『The COMM』のファッションショーは、Vol. 1 に登場したすべてのテーマの総まとめとなった。様々なファッションを1つのショーに集めることで、『The COMM』を完璧に表現する――コミュニティーのファッションの多彩さを披露するのだ。モデルたちは個性的なスタイルで第1号から第6号までのテーマを体現した。コーディネートを分析しながら、それぞれを再び紹介しよう。 ※ON-1 Collectiveはメディアプラットフォームで、東京に活動の拠点を置くクリエイティブなコミュニティーを毎月紹介するイベントです。 ちゃみ ショーの幕開けは、第3号「『カワイイ』革命」から、ちゃみさん。彼女の色鮮やかなコーディネートは、ショーのスタートにぴったりだった。足を踏み出した途端、会場中のケータイが向けられた。 大きいグラフィックがあしらわれた、ほとんどがピンク色のコーディネート。黄色いタイツと、透け感のあるホログラフィックジャケットを合わせた。そして髪には、たくさんのリボンとヘアクリップ、他にもカラフルなアクセサリーを奔放に飾った。偶然の取り合わせのようにも見えるが、それぞれのアイテムが、テーマや全体のトーンにぴったり合っていた。 ちゃみさんについてもっと詳しく知りたい方は、第3号

なめらかな着物、ネオンラテックス、パステルカラーのビロード。どこへ行っても色彩や手触り、音で感覚が満たされる。まるでお菓子屋さんにいる子供みたい――「きれい」というキャンディに目移りしている。カワイイやレトロ、サイバー、スケーター、パンク

ようこそ! 『The COMM』Vol. 2 (第1号) です! ご無沙汰してしまいましたが、再始動した『The COMM』は2019年の活動に向けてウズウズしています! 今年は去年より更に大きなスタートを切るべく、お気付きの通りウェブサイトを大幅に改善しました。去年と同じく、注目のゲストやコラボレーション企画といった素晴らしいコンテンツの提供に全力を注いでいきますが、今年はスケールが違います! フォトシューティング、寄稿文に動画コンテンツ、ほかにも注目すべき企画がいっぱい。どうぞお見逃しなく! 今号は、インスピレーションが湧き上がる最初の場所へコミュニティーを立ち返らせます――そう、ランウェイです!ランウェイにモデルが歩み出た瞬間に感じる興奮。新作コレクションをいち早く目にできるという期待感が空間に溢れ、音楽、照明、そして洗練されたポージングが、ショーを一気にパフォーマンスへと変貌させます。 モデルと観客、双方の経験があるわたしが、ランウェイがどれほどワクワクするものかをお伝えしましょう。舞台裏では、デザイナーたちはその年の――または人生の!――集大成を披露することに神経を尖らせており、モデルたちはとにかく堂々とランウェイを歩ききる決意を固めています。メイクアップアーティストやヘアスタイリストたちは、身長180センチのモデルの脇でつま先立ちをしながら、頬にチークをはたいたりと、ぎりぎりまでディテールにこだわっています。体内を駆け巡るカフェインが無ければ、持ちこたえられないでしょう。 観客の心を盛り上げているのは期待です。何を観せてもらえるのか?何に心を奪われるだろうか?何が印象に残るか?ショーはそれほど長くないかもしれませんが、その一瞬のインパクトがクリエティブな若者の考えに大きな影響を及ぼします。例えば、将来どのようなプロジェクトを展開していくか。デザイナーは誰でも、自分のコレクションを作りたいと思わせたアイテムが、 どの年の、どのコレクションの、どんなアイテムだったか、語ることができます。ランウェイという存在は、ファッション界は1分では変えられないという考えを真っ向から否定するのです。 もちろん、ランウェイはハイブランドだけのものではありません。大学におけるショーでは毎年、ファッションを専攻する学生たちがランウェイを激しく揺さぶります。業界の型にはまらず、純真さを失っていない、荒削りで斬新なその才能で。 それから